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第12話 悪い予感

作者: O.T.I
last update 公開日: 2026-06-11 20:35:25

エステルとクレイが騎士団詰所で手続きを終えた頃。王都エルネの中心にある王城では、ちょっとした騒ぎが起きていた。

「殿下……いや、陛下はまだお戻りにならないか?」

「はい。随伴した騎士から|撒かれた《・・・・》と連絡が来てから、特に音沙汰はないです」

「そうか。……まったく。姫様まで連れ出して……」

王城の一室。執務室で話をしているのは部屋の主であるエルネア王国の宰相と、その部下である。

宰相といえば国政に携わる官職の最高責任者。経験や実績、実力が求められる職位であるため、通常であればそれなりに歳を重ねた者が就くものであるが、エルネア王国の宰相は年若く、まだ二十代……精々が三十代前半くらいに見える。

青銀の髪に、アイスブルーの瞳。理知的な顔立ちに、丸いレンズの眼鏡がよく似合っている。ともすれば怜悧にも見える外見だが、纏う雰囲気は穏やかだ。

苦労の絶えない宰相閣下の心の内を思えば同情を禁じえないが、いつもの事と言えばいつもの事なので、部下は上司の愚痴に苦笑するだけに留めた。

と、その時。執務室の扉がノックされ、部下の一人が入室してくる。

「フレイ様。陛下がお戻りになられました」

「やっとか……では書類を持っていくか。……あぁ、私が行く。一言言わねば気が収まらん」

宰相……フレイは、説教する気満々で執務室を出ていった。トレーニングにもなりそうなほどの大量の書類を抱えて。

残された部下たちは、やはりいつもの事……と、顔を見合わせて苦笑を浮かべるのだった。

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

「失礼します。陛下、決裁待ちの書類をお持ちしました」

王の執務室にやって来たフレイは、持ってきた大量の書類を、ドンッ!とこれ見よがしに音を立てて机の上に置いた。

「……何だ?この出鱈目な量の書類は?」

「何だ、じゃありません。陛下が公務をサボって外出などされるから溜まるのです」

「サボったなどと人聞きが悪い。民の暮しを間近に見るのも、王の務めだぞ」

いかにも立派なことを言っているように聞こえるが、どこか拗ねたようなその表情をみれば、彼自身、後ろめたい気持ちが多少はあるのだろう。

「またそんな格好をされて……わざわざ魔法で髪と瞳の色まで変えて……」

呆れたようにフレイは言う。今、彼の目の前にいるこの国の若き国王は、黒い髪に黒い瞳、それに、仕立ては良いが平民が着るようなデザインの服を着ていた。

「おっと、まだ魔法を解いてなかった。|アラン《・・・》はもう終わりだったな」

そう言って王は目を閉じて何事かを呟く。すると、一瞬のうちに髪の色が黒から眩い黄金へと変化する。そして、閉じていた目を開くと……瞳の色は青に変わっていた。

「……あまり、羽目を外さないで頂きたいものです」

劇的な変化にも宰相は驚かず、溜め息をついて苦言を呈する。その様子は、これがいつもの事だと言うことを窺わせた。

「まぁ、そういうな。お前からすれば遊びにしか見えないだろうが……色々と収穫もあるのだぞ?」

「……?」

「有能な騎士候補を見つけた。まだ若いが、かなりの実力者たちだ」

先程出会った二人を思い出し、王は笑みを浮かべた。

その様子に、フレイは少し驚きを見せる。王が実力を認める者など滅多にいないからだ。

「陛下がそのような評価をなさるとは……いったい何者なのです?」

「さぁ……な。だが、今頃騎士団の登用試験の手続きをしてるはずだ。書類を見れば分かるだろう」

「そうですか……では、楽しみにしておきましょう。……それよりも陛下。騎士団の事もよろしいですが……後宮の事もよくお考えください」

「……分かってる」

その話題が出た途端、王は不機嫌な表情となる。

だが、それに怯むようでは宰相は務まらない。フレイはさして気にした風もなく、続けて言う。

「陛下が後宮の制度を嫌っているのは重々承知しています。ですが……」

「あ~、分かってるよ。ちゃんと考えておく」

「……お願いしますよ。10日後には審査があるのですから」

もう少し念押ししたかったフレイだが、これ以上不機嫌になられては書類仕事の効率が落ちると判断し、それを言うのに留めた。

だが、それを聞いた王の表情はどこか悪戯っぽいものとなるのをフレイは見逃さなかった。

「10日後……そうか、10日後か。そうか……」

「陛下……また何か良からぬ事を思いついたのでは……」

嫌な予感がしたフレイは、嫌そうな顔をする。それを見た王は、益々いやらしそうな笑みを浮かべた。

「何、大したことじゃないさ。まぁ、あれだ。騎士団の審査も、後宮の審査も滞りなく、手違いなく進めるように、な?」

その王の物言いにフレイは、悪い予感が当たりそうだ……と、諦めにも似た思いが浮かぶのだった。

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